
全国から研修医が集まる理由──東京科学大学病院の歯科研修のリアル
東京都
東京科学大学病院
歯科医師としての第一歩をどこで踏み出すかは、その後のキャリアに大きな影響を与えます。なぜ、東京科学大学病院には全国から研修医が集まってくるのか。その理由を探るべく、研修プログラムを支える則武加奈子先生との対話を通じて、現場のリアルな声をお届けします。
Q1:東京科学大学病院の歯科臨床研修プログラムについて教えていただけますか?

則武先生:東京科学大学病院には、プログラム1、プログラム2、プログラム3の3つの研修プログラムがあります。
それぞれ特徴がありまして──
- プログラム1は、半年間大学病院で研修し、残りの半年間を協力型(I)研修施設(全国40施設)で行うプログラムです。
- プログラム2は、1年間本院で総合診療研修を行うもので、年に5日間、協力型(II)研修施設での訪問診療研修も組み込まれています。
- プログラム3は1年間を通して本学で研修を行い、「保存系」「補綴系」「口腔外科系」を4ヶ月ごとにローテーションする形式です。こちらもプログラム2同様訪問診療研修を協力型(II)研修施設にて5日間行います。
Q2:研修指導体制について教えてください。
則武先生:本院には第2 総合診療室(第2総診)という、研修歯科医専用の診療室があり、プログラム1 と2のメインの研修場所となります。第2総診には5 ~6 名の指導医が常駐しており、診療を直接指導しています。さらに、選択研修などの研修でもそれぞれ主任指導者がいますので、全体として指導体制は非常に充実しています。
Q3:研修医が相談しやすい環境も整っているのでしょうか?
則武先生:そうですね。私自身、研修センターの教員として現場で指導をしています。症例や体調、キャリアなどについても垣根なく相談できる体制です。また、当院の指導歯科医は非常に教育熱心で、他大学から来た研修医の方々からも「相談しやすい」とよく言われます。
Q4:年間スケジュールについて教えてください。
則武先生:4月に採用式があり、研修開始直後には1 週間のオリエンテーションを行います。その後、各プログラムごとに研修が始まります。本学以外の出身者には、保存科・補綴科・口腔外科の先生方による「基礎研修」も用意しており、教育内容の違いを補完します。
9 ~10月には半年プログラムの入れ替えがあり、3月に研修が修了します。また、毎週金曜15 時からは学内の研修医全員が集まる連絡会と、内部・外部講師による研修セミナーを実施しています。
Q5:特に重要視している研修内容はありますか?
則武先生:当院の特徴は「診療実践型」の研修で、30 人ほどの患者さんを配当し、担当医として診てもらいます。特に研修冒頭は大変と思いますが、やる気のある方が多く、指導医と相談しながら診療を進めることで、患者さんとの信頼関係を築き、最終的には自信を持って診療ができるようになっていきます。
Q6:症例数や研修内容のボリュームについてはいかがですか?
則武先生:患者数はおおよそ30人ほどで、加えて医学部の入院患者に対する口腔健康管理を行う「オーラルヘルスセンター」での研修も必修です。選択研修も含めると、年間で約200症例を経験することになります。やる気のある方はそれ以上の経験もできます。
Q7:設備についてもお聞かせください。
則武先生:研修歯科医専用の診療室に加えて、控室や技工室(2人で1机)、ロッカールームも完備されています。また、スキルスラボという自主練習スペースもあり、自由に練習できます。第2総合診療室には顕微鏡もあり、歯内療法などにも対応可能です。
Q8:最新の設備なども導入されていますか?
則武先生:はい。例えば、オーラルスキャナーやセレックシステムなどもあり、希望があればそういった設備を使った研修も可能です。また、先端歯科などの見学も希望に応じて対応可能です。

Q9:プログラムの定員や採用状況について教えてください。
則武先生:定員は60名で、ありがたいことに毎年フルマッチしています。内訳としては、本学出身者が6~7割、他大学からの方が3~4割です。
Q10:採用にあたって重視している点はありますか?
則武先生:やはり「やる気」のある方に来てほしいと考えています。当院のプログラムは指示待ちではなく、能動的に動くことが求められるため、自ら学び成長したいという意欲のある方を歓迎しています。
Q11:研修期間中のサポート体制はどのようになっていますか?
則武先生:日々の相談には研修センターが対応しており、大学の保健管理センターとも連携してきめ細やかなサポートを行っています。問題なく修了される方がほとんどですが、少し難しいと感じる方に対しても、しっかりとフォローする体制を整えています。
Q12:他大学出身の研修医も安心して参加できそうですね。
則武先生:はい。先輩の紹介で来る方も多く、本学出身、他学出身に関わらず皆で助け合いながら研修を乗り越える雰囲気があります。最初は不安を感じる方も多いですが、1 年経つと「たくさんの経験が積めた」と実感されているようです。
Q13:研修修了後の進路についてはいかがですか?
則武先生:大学院や研究生として本学に残る方が6~7割程度です。その中で10名程度が「歯科レジデント」として後期研修に進みます。その他にも就職する方や、母校の大学院に戻る方もいらっしゃいますが、当院で引き続き研鑽を積む方が多いです。
Q14:研修を通して期待する成長について教えてください。
則武先生:国家試験は明確な正解がある一方、臨床現場では正解が一つとは限りません。その場での判断力や、相談すべきタイミングを見極める力が必要です。私たちは「考えて動く力」を身につけてもらいたいと思っており、あえて細かい指示は出さず、自発的に行動できるようサポートしています。

Q15:今後の改善点や新しい取り組みについては?
則武先生:厚労省の改定に伴い、訪問歯科診療研修や周術期口腔健康管理研修を必修としました。また、地域包括ケアや災害医療にも対応したセミナーも実施しています。大学病院にいるとどうしても地域の医療現場に触れる機会が限られてしまいますので、地域医療に関しては意識的に補っていけたらと思っています。